「弁護士に頼めば安心」と思って成年後見の手続きを進めようとしたとき、費用の全体像がどこにも書かれていないことに気づいた方は多いはずです。

申立て費用は調べれば出てきます。しかし、後見が始まった後に毎月かかる報酬、それが10年・20年と続いた場合の総額——これを正面から答えている記事は、ほとんど見当たりません。
この記事では、弁護士に成年後見を依頼した場合の「初期費用」から「20年総額」まで、そして司法書士など他の選択肢との費用比較を、具体的な数字でお伝えします。費用を抑えるための公的助成制度についても、最後まで読めばすべてわかります。
なぜ成年後見の弁護士費用は「わかりにくい」のか
成年後見制度は、認知症や知的障害などで判断能力が低下した人を法律的に支援するための制度です。

ただ、費用の仕組みが複雑で、一度始めたら原則として止められないという特性が、多くの家族を悩ませています。
弁護士や司法書士などの専門家が後見人に選任されると、毎月「後見人報酬」が発生します。この報酬は家庭裁判所が審判で決定するもので、被後見人の財産額に応じて月2〜6万円が相場です。制度を使い続ける限り、この費用は毎月発生します。
多くの記事が「申立て費用は数万円〜」と書きながら、その後の月額費用についてはあいまいな記述しかありません。
「申立てだけだと思っていたら、毎月の報酬が何十年も続くと後から知った」という声は珍しくないのです。でも、知っていれば対処できます。費用の全体像を把握し、選択肢を比較することで、家族にとって最適な判断ができるようになります。
弁護士に成年後見を依頼した場合のトータル費用
申立代行費用の相場(10〜30万円)
弁護士に成年後見の申立て手続きを依頼した場合、まず「申立代行費用」がかかります。
相場は10〜30万円が一般的です。この金額には、書類作成・収集・家庭裁判所への申立てまでの一連の手続きが含まれます。依頼する弁護士事務所の規模や地域によって金額は異なります。
| 費用項目 | 金額の目安 |
| 弁護士への申立代行費用 | 10〜30万円 |
| 収入印紙・切手・郵便切手等 | 申立手数料800円+後見登記手数料2,600円+郵便切手等(家裁により異なる) |
| 医師の診断書費用 | 医療機関により異なる(要事前確認) |
| 鑑定費用(必要な場合) | 5〜10万円 |
| 戸籍・登記書類取得費 | 2,000〜5,000円程度 |
| 合計(弁護士依頼時) | 15〜45万円程度 |
注意が必要なのは、弁護士に「申立代行を依頼すること」と「後見人に就任してもらうこと」は別の話だという点です。後見人に誰が選任されるかは家庭裁判所が決定するため、必ずしも依頼した弁護士が後見人になるとは限りません。
後見人就任後の月額報酬(財産別シミュレーション)
申立てが受理されて後見が開始すると、家庭裁判所によって選任された後見人に対して毎月「後見人報酬」が発生します。
この報酬額は、被後見人が管理している財産の総額によって変わります。東京家庭裁判所が公表しているガイドラインでは、以下が目安です。
| 管理財産の総額 | 月額報酬の目安 |
| 1,000万円未満 | 月2万円 |
| 1,000万円〜5,000万円 | 月3〜4万円 |
| 5,000万円超 | 月5〜6万円 |
専門職後見人(弁護士・司法書士・社会福祉士)の場合、この目安に加えて業務の複雑さに応じて増額されることもあります。
「20年使い続けると総額○○万円」の現実
成年後見制度が必要になるのは、多くの場合70代以降です。被後見人が90歳まで生きた場合、20年間にわたって月額報酬が発生します。
財産1,500万円(月3万円)のモデルケースで試算すると、次のようになります。
| 経過年数 | 月額報酬累計 | 初期費用加算後の総額 |
| 5年 | 180万円 | 200〜225万円 |
| 10年 | 360万円 | 380〜405万円 |
| 15年 | 540万円 | 560〜585万円 |
| 20年 | 720万円 | 740〜765万円 |
財産5,000万円超(月5万円)なら、20年の月額累計だけで1,200万円を超えます。
「申立てにかかる費用は一時的なもの」と思っていると、想定外の長期負担に直面することがあります。制度を利用する前に、この「ランニングコスト」を必ず確認してください。
弁護士・司法書士・社会福祉士・市民後見人の費用比較
成年後見の後見人には、弁護士以外にも複数の選択肢があります。選ぶ専門家によって費用と役割が異なるため、比較して検討することが大切です。

| 後見人の種類 | 月額報酬の目安 | 主な業務 | 向いているケース |
| 弁護士 | 月3〜6万円 | 法律トラブル対応・財産管理 | 相続争い・債権者対応がある |
| 司法書士 | 月2〜4万円 | 財産管理・書類手続き | 不動産の登記変更がある |
| 社会福祉士 | 月2〜3万円 | 介護サービス調整・身上保護 | 施設入所・医療判断サポートが必要 |
| 市民後見人 | 低額(裁判所が個別決定) | 日常的な財産管理サポート | 財産が少ない・家族に近い支援を希望 |
弁護士を選ぶべきケース・選ばなくてよいケース
弁護士が必要なケース:
- 相続紛争・親族間の財産争いが起きている
- 被後見人が多額の負債を抱えている
- 後見監督を要する高額財産がある
弁護士でなくても十分なケース:
- 財産管理が主な業務(不動産なし・預貯金のみ)
- 施設入所手続き・介護計画の調整が中心
- 財産が少なく月額報酬を抑えたい
多くの家庭では、法的紛争がない限り、司法書士や社会福祉士でも十分に対応できます。月額報酬の差が年間12〜36万円になるため、長期的な費用負担を考えると選択肢の比較は必須です。
専門家ごとの費用感まとめ(10年・20年シミュレーション)
財産1,500万円(月額報酬が基本報酬ベース)のモデルで、専門家ごとの長期コストを試算します。
| 後見人の種類 | 月額報酬 | 10年累計 | 20年累計 |
| 弁護士(通常業務) | 月3〜4万円 | 360〜480万円 | 720〜960万円 |
| 司法書士 | 月2〜3万円 | 240〜360万円 | 480〜720万円 |
| 社会福祉士 | 月1.5〜2万円 | 180〜240万円 | 360〜480万円 |
| 市民後見人 | 低額(個別決定) | 低額 | 低額 |
弁護士と市民後見人の差は、20年で最大900万円以上になります。「専門家の種類を選ぶこと」は、後見期間全体を通じて最も費用に影響する意思決定のひとつです。
後見人報酬はどうやって決まるのか
家庭裁判所の審判プロセス
「後見人報酬はどうやって決まるのか」という疑問を持つ方は多いです。実は、後見人への報酬支払いは自動的には行われません。後見人自身が家庭裁判所に「報酬付与の申立て」を行い、裁判所が審判で金額を決定します。
このプロセスを知らないと、「なぜ裁判所から審判書が届いたのか」と混乱することがあります。
報酬付与の申立ては通常、年に1〜2回行われます。申立て書類には、管理財産の一覧・後見事務の内容・経費の明細が必要です。
審判書が届いた後、申立人(家族)や被後見人側が内容に異議を申し立てることも制度上は可能です。ただし、認められるケースは少なく、裁判所のガイドラインに沿った金額であれば基本的に通ります。
財産額と報酬額の目安(裁判所ガイドライン)
東京家庭裁判所が公表している「成年後見人等の報酬額のめやす」によると、基本報酬は管理財産額に応じた月額が基準になります。
ただし、以下の場合は付加報酬として基本報酬額の50%の範囲内で上乗せが認められることがあります。
- 不動産売却・金融機関の交渉など特別な業務があった場合
- 後見人が複数の業務を同時並行でこなした場合
- 被後見人の状態が急変して対応が必要になった場合
つまり、毎年の報酬額は固定ではなく、その年の業務量によって変わる可能性があります。複雑な業務が発生した年は想定より高くなることも覚えておいてください。
後見監督人が選任された場合の追加費用
財産が高額の場合や、後見人と被後見人が親族関係にある場合、家庭裁判所が「後見監督人」を選任することがあります。
後見監督人が選任されると、後見人とは別に監督人への報酬が毎月発生します。監督人の報酬額は家庭裁判所が個別事案に応じて決定するため一律の基準はありませんが、後見人報酬より低めに設定されることが多いとされています。
弁護士が後見人、司法書士が後見監督人というケースでは、両者の月額報酬を合算すると月5〜7万円になることもあります。申立て前に「後見監督人が選任される可能性があるか」を確認しておくことが大切です。
【事例】田中さん(67歳・埼玉県)の場合
田中さんは、80歳の父が認知症と診断されたことをきっかけに、成年後見制度の利用を検討し始めました。
最初は「弁護士に頼めば確実」と考え、地元の弁護士事務所に相談。申立代行費用として20万円の見積もりが出ました。
しかし担当弁護士に「後見人になった場合の費用はどのくらいですか?」と聞いたとき、初めて毎月3〜4万円の報酬が続くことを知ります。父の財産は預貯金と自宅不動産を合わせて約2,000万円。月3万円の報酬が20年続くと、それだけで720万円になる計算でした。
田中さんはその後、法律紛争がないことを確認のうえ、司法書士への相談に切り替えました。司法書士による申立代行費用は12万円、後見就任後の月額報酬は2万5,000円に抑えられました。
弁護士との差額は、申立費用だけで8万円。月額は5,000円の差ですが、20年で120万円の節約になります。「最初から比較すればよかった」というのが田中さんの実感でした。
費用を抑えるための3つのステップ
ステップ1:法的紛争の有無を確認する
最初に確認すべきは、「後見期間中に法的な紛争が起きる可能性があるかどうか」です。
- 相続争いの予兆がある
- 被後見人に多額の負債がある
- 親族間でお金の動きに争いがある
上記に該当しない場合は、弁護士でなく司法書士や社会福祉士でも十分に対応できます。この確認だけで月額費用を1〜2万円抑えられる可能性があります。
落とし穴: 後から法的紛争が起きた場合、後見人を変更するには家庭裁判所への手続きが必要です。最初から想定し、切り替えを前提に専門家を選ぶことも選択肢の一つです。
ステップ2:公的助成制度「成年後見制度利用支援事業」を確認する
「費用が払えないから成年後見を使えない」という方のために、国と自治体が整備している支援制度があります。それが成年後見制度利用支援事業です。
| 支援内容 | 対象者 |
| 申立費用の助成 | 生活保護受給者・低所得者 |
| 後見人報酬の助成 | 被後見人の財産が不足する場合 |
この制度の対象者は、主に「生活保護受給者」や「市町村民税非課税世帯」に該当する方です。被後見人の財産が生活費として不足している場合、自治体が後見人報酬を肩代わりします。
制度の詳細(助成額・申請窓口)は自治体によって大きく異なります。同じ都道府県内でも市区町村ごとに内容が違うため、「成年後見制度利用支援事業 ○○市(自分の住んでいる市)」で検索して確認するのがもっとも確実です。
問い合わせ先は、市区町村の高齢者福祉担当窓口・地域包括支援センター・社会福祉協議会のいずれかが一般的です。
落とし穴: 申請は自動ではありません。後見人選任後、本人または家族が自治体に申請する必要があります。後から申請しても助成が始まるのは申請日以降になるため、できるだけ早めに確認することが重要です。
ステップ3:「自分でできる部分」を前もって分離する
申立て手続きの一部は、時間と手間をかければ自分で行うことが可能です。診断書の取得・書類収集を自力で行い、「書類が揃ったうえで弁護士または司法書士に申立てのみ依頼する」という方法を取れば、費用を数万円抑えられます。
ただし、複雑な財産構成や紛争リスクがある場合は、最初から専門家に一任することをおすすめします。手続きの誤りで申立てが却下されると、やり直しにかかる費用と時間のほうが大きなロスになります。
よくある質問
Q. 弁護士費用は被後見人の財産から払えますか?
払えます。成年後見の費用(申立費用・後見人報酬)は、原則として被後見人の財産から支払われます。家族が立て替える必要は基本的にありません。
ただし、初期の申立費用については、申立てを行う「申立人」(通常は家族)が一時的に支払い、後見開始後に被後見人の財産から精算するケースが多いです。
Q. 被後見人の財産が少ない場合、費用はどうなりますか?
財産が少ない場合は、前述の「成年後見制度利用支援事業」による自治体助成の対象になる可能性があります。財産がほとんどない場合でも、市民後見人(専門職後見人より報酬が低額になる傾向があります)が選任されるケースもあります。
市民後見人は各自治体が養成・派遣しており、地域によって利用可能な状況が異なります。市区町村の担当窓口に確認することをおすすめします。
また、後見業務の範囲が小さい場合(財産が少なく管理が単純)には、家庭裁判所が報酬を月1〜2万円に抑えるケースもあります。財産規模と必要な業務量を後見人候補者と事前に話し合っておくと、報酬の想定がしやすくなります。
Q. 後見人報酬の支払いを拒否することはできますか?
家庭裁判所が審判で決定した報酬は、支払い義務があります。拒否することはできません。
ただし、後見人の業務が不適切だった場合は、家庭裁判所に申し立てて後見人を解任することはできます。報酬の金額が不当に高いと感じた場合も、家庭裁判所に異議申立てを行うことが可能です。
Q. 親族が後見人になれば費用はゼロになりますか?
親族が後見人に選任された場合、報酬を請求しないことを選べます。この場合、家庭裁判所への報酬付与の申立て自体を行わなければ、費用は実質ゼロになります。
ただし、親族後見人を選任するかどうかは家庭裁判所が決定するため、必ずしも希望する親族が後見人になれるとは限りません。親族間で利害関係の対立がある場合や、財産規模が大きい場合は専門職後見人が選任されることが多くなっています。なお、親族後見人が就任した場合でも、別途「後見監督人」として専門家が選任されると、その費用が発生することがあります。
まとめ
成年後見の弁護士費用は、申立代行費用(10〜30万円)と後見人就任後の月額報酬(月2〜6万円)の2層構造です。長期間にわたる制度の特性上、初期費用より月額報酬の累計が総負担の大部分を占めます。
法的紛争がないケースでは、弁護士でなく司法書士や社会福祉士への依頼で費用を大きく抑えられます。また、財産が少ない家庭には公的助成制度(成年後見制度利用支援事業)が利用できる場合があります。まずは複数の専門家に相談し、費用の全体像を把握してから判断することが大切です。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
成年後見の問題は、知っているかどうかだけで、結果が大きく変わります。
難しい制度のなかで、正しい情報を手に入れることがどれほど大切か、
日々の記事執筆を通じて痛感しています。
この記事が、あなたの生活を少しでも楽にするきっかけになれば嬉しいです。
これからも、あなたの生活防衛に役立つ情報を発信し続けます。
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