「任意後見にしようか、家族信託にしようか」と迷っていませんか。どちらも親の認知症に備えるための制度ですが、名前が似ているせいか混同されがちです。

一言で違いを言えば、任意後見は「認知症になった後」に発動する制度、家族信託は「認知症になる前から」財産を動かせる仕組みです。目的も使えるタイミングも異なるため、自分の状況に合った方を選ぶことが大切です。
この記事では2つの制度の本質的な違い・費用比較・状況別の選び方を解説します。「どちらが自分に向いているか」の判断基準が明確にわかる内容です。
そもそも任意後見制度とは
任意後見制度とは、本人が判断能力を持っているうちに、将来の後見人と契約を結んでおく制度です。その後、認知症などで判断能力が低下した段階で、家庭裁判所に申立てをして「任意後見監督人」が選任されると、後見が正式に始まります。
法定後見(裁判所が後見人を選ぶ制度)と違い、後見人を自分で選べる点が大きな特徴です。ただし、後見が発動するのは判断能力が低下した後です。元気なうちに契約を結んでも、その段階では財産管理の権限はありません。
任意後見人になれる人
任意後見人は家族に限らず、信頼できる知人や司法書士・弁護士などの専門家でも選べます。複数人を共同後見人にすることも可能です。
任意後見が始まると、任意後見監督人(裁判所が選ぶ)による監督が入ります。後見監督人の報酬は管理財産額に応じて月額1〜3万円程度(東京家庭裁判所の目安)が参考値で、これが長期化するとランニングコストとして積み上がります。
任意後見と家族信託の5つの違い
2つの制度の違いを整理すると、以下のとおりです。

| 比較項目 | 任意後見 | 家族信託 |
| 使えるタイミング | 認知症になった後(発動後) | 契約直後から(認知症前から) |
| 目的の範囲 | 財産管理+身上監護(介護施設入居契約など)※医療同意権は原則対象外 | 財産管理に特化(身上監護は対象外) |
| 手続き | 本人が元気なうちに契約→発動時に家庭裁判所に申立て | 信託契約の締結のみ(裁判所不要) |
| 監督 | 任意後見監督人(裁判所が選任)が必ず就く | 原則なし(信託監督人を任意で設置可能) |
| 柔軟性 | 設計の自由度が低い(裁判所の監督範囲内) | 設計の自由度が高い(受益者・受託者の設定が柔軟) |
最大の違い:使えるタイミング
任意後見は、認知症と診断されてから初めて動かせます。「親が認知症になる前に、不動産の売買や資産の組み替えをしたい」という場合には使えません。
家族信託は契約を結んだ時点から受託者(子ども)が財産を動かせます。「親がまだ元気なうちに実家の管理を任せたい」「空き家になる前に売却手続きを進めておきたい」という要望に応えられるのは家族信託だけです。
身上監護の有無
任意後見の後見人は「身上配慮義務」を負い、介護施設の入居契約などを代理で行えます。ただし、医療行為への同意権は当然には含まれません。権限の範囲は契約内容によって異なるため、契約時に司法書士・弁護士と明確に取り決めておくことが重要です。
家族信託の受託者には身上監護の権限がありません。財産は動かせても、介護施設の入居契約代理などは受託者の権限外です。身上監護が必要な場面は、任意後見や法定後見で対応することになります。
費用の比較(初期費用+ランニングコスト)
費用を比較する際は、初期費用だけでなくランニングコストまで含めた総コストで判断することが重要です。
初期費用の比較
| 費用項目 | 任意後見 | 家族信託 |
| 専門家への報酬 | 依頼先・内容によって変動(参考値:数万〜30万円) | 依頼先・財産規模によって変動(参考値:30〜80万円) |
| 公証役場の手数料 | 契約内容によって変動(参考値:数万円程度) | 財産規模によって変動(参考値:4〜20万円程度) |
| 登録免許税 | なし(後見登記のみ) | 不動産がある場合は発生 |
| 初期費用合計(参考値) | 数十万円程度 | 数十万〜100万円程度 |
ランニングコストの比較
| 費用項目 | 任意後見 | 家族信託 |
| 後見監督人報酬 | 月額1〜3万円程度(管理財産額により変動・必須) | なし(原則) |
| 家庭裁判所への報告 | 年1回(手間・費用発生) | なし |
| 10年間の累計ランニング(参考値) | 月1〜3万円×120ヶ月の単純計算で120〜360万円程度(変動あり) | ほぼ0円 |
初期費用は任意後見の方が安い一方、後見監督人への報酬が毎月発生するため、長期化するほど家族信託の方が総コストで有利になるケースが多いです。認知症の経過は個人差が大きく、長期に及ぶ可能性があることを踏まえて、長い目で見た比較をしておくことが大切です。

どちらを選ぶべきか・状況別判断フロー
家族信託が向いているケース
- 認知症になる前から不動産を管理・売却したい
- 収益物件の家賃収入を子どもに管理させたい
- 孫への教育資金の贈与など長期的な財産設計をしたい
- 後見監督人のランニングコストを避けたい
- 家族間の信頼関係が良好でシンプルな設計で十分
任意後見が向いているケース
- 医療同意・施設入居の契約代理まで任せたい(身上監護も必要)
- 財産管理を第三者(専門家)に任せたい(家族に管理させたくない)
- 家族信託の初期費用が高額で捻出が難しい
- 財産が現預金のみでシンプル(信託設計の複雑さが不要)
両方組み合わせる「ダブル活用」という選択肢
家族信託と任意後見をセットで設計することも可能です。
具体的には、「財産管理は家族信託で対応し、身上監護は任意後見契約を結んでおく」という組み合わせです。認知症になるまでは家族信託で財産を動かし、認知症後は任意後見を発動させて介護・医療面のサポートを任せる設計です。
両方準備することで死角をなくせますが、初期費用と設計の複雑さは増します。専門家に相談して自分の財産規模・家族構成に合った選択をすることをおすすめします。
【事例】田中さん(68歳・埼玉県)が家族信託を選んだ理由
田中さんは妻(65歳)と長男(42歳)の3人家族。財産は自宅(評価額2,500万円)と賃貸アパート(評価額4,000万円)、預金1,200万円です。
アパートの空室対応や修繕工事の発注を長男に任せたいと考えた田中さんは、当初「任意後見で十分では」と思っていました。ところが、司法書士に相談したところ「任意後見では認知症になる前の管理はできない」と指摘されました。
田中さんはまだ認知症ではなく、今すぐにでも空室対策の大規模修繕を進めたい状況でした。任意後見では発動前の今の時期に対応できないため、家族信託を選択。アパートと自宅を信託財産にして長男を受託者にした結果、修繕工事の発注・家賃口座の管理・将来的な売却判断まで長男が動けるようになりました。
身上監護については「必要になったときに別途任意後見を検討する」方針にしています。専門家に両制度を比較してもらうことで、田中さんの状況に最適な組み合わせを選ぶことができました。
よくある質問
Q. 任意後見人と法定後見人はどう違いますか?
任意後見人は「本人が元気なうちに自分で選ぶ」後見人です。法定後見人は認知症が進行してから「家庭裁判所が選任する」後見人で、自分で選べません。元気なうちに動けるなら任意後見契約を結んでおく方が選択の余地が広がります。
Q. 家族信託は認知症が進行しても有効ですか?
有効です。家族信託は契約締結後に委託者(親)が認知症になっても、信託の効力は継続します。受託者(子ども)が引き続き財産管理を行えます。これが家族信託の最大のメリットの一つです。
Q. 任意後見と家族信託を両方契約するときの費用はどのくらいですか?
初期費用は財産規模・依頼先によって大きく変動するため、一律の相場は示しにくいです。それぞれ単独で専門家に見積もりを取り、合算して判断することをおすすめします。ランニングコストは任意後見発動後に後見監督人報酬が月額1〜3万円程度(管理財産額により変動)かかります。
Q. 任意後見の後見監督人は必ず就かなければなりませんか?
任意後見の場合、後見監督人の選任は法律上必須です(任意後見契約法4条)。法定後見(後見・保佐・補助)とは異なり、任意後見は監督人なしでは発動できません。
まとめ
任意後見と家族信託の最大の違いは、使えるタイミングと目的の範囲にあります。認知症になる前から財産を動かしたい・不動産の管理を任せたいなら家族信託、認知症後の身上監護(医療・介護の意思決定)まで任せたいなら任意後見という判断が基本です。
費用面では初期費用は任意後見が安く、長期ランニングコストは家族信託が有利です。どちらか迷う場合は、両方の選択肢を専門家に比較してもらうことが最も確実です。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
任意後見と家族信託の選択は、知っているかどうかだけで、結果が大きく変わります。
難しい制度のなかで、正しい情報を手に入れることがどれほど大切か、日々の記事執筆を通じて痛感しています。
この記事が、あなたの生活を少しでも楽にするきっかけになれば嬉しいです。
これからも、あなたの生活防衛に役立つ情報を発信し続けます。
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