親が亡くなった後、==何から手をつければいいかわからない==まま、気づけば1週間が経っていた——そんな経験をされた方は少なくありません。
相続手続きは、死亡届の提出から始まり、戸籍謄本の収集、遺産分割協議、各種名義変更、場合によっては相続税申告まで、10ヶ月以上にわたる長い道のりです。「全部自分でやれるのか」「どこからプロに頼むべきか」という判断がつかないまま、専門家に丸投げして==数十万円の費用が発生した==という話も珍しくありません。
この記事では、相続手続きの全手順を8ステップで整理し、自分でできる部分とプロに任せるべき境界線を具体的に示します。費用を抑えながら確実に進めるための判断基準が、ここで手に入ります。
この記事でわかること:
- 相続手続きの全手順(STEP 1〜8)と期間目安
- 自分でやった場合の実費・専門家費用との比較
- 戸籍謄本の集め方(本籍地が複数の場合)
- どこからプロに頼むべきかの判断フロー
- よくある失敗と対処法
なぜ相続手続きはこんなに複雑なのか
相続手続きが複雑に感じる最大の理由は、関係する機関が多すぎるからです。市区町村の役所、複数の法務局、税務署、銀行、証券会社、生命保険会社——親一人の死亡で、10機関以上に個別で手続きが必要になることもあります。
しかも、それぞれの手続きに期限があります。相続放棄は3ヶ月以内、準確定申告は4ヶ月以内、相続税申告は10ヶ月以内です。この期限を知らないまま動いていると、気づいたときには手遅れになることもあります。
本来であれば、死亡直後に行政から「手続きリスト」が届くべきですが、現実はそうなっていません。情報は分散しており、自分でかき集めるしかないのが現状です。でも、全体像を把握してから動けば、着実に前に進むことができます。
相続手続きを自分でやる場合の全体像
自分でやった場合の期間目安
相続手続きを自分でやる場合、一般的に3〜6ヶ月程度かかります。戸籍謄本の収集だけで1〜2ヶ月かかることも多く、本籍地が複数の都道府県にまたがる場合はさらに時間がかかります。
| 手続き | 期間目安 | 期限 |
| 死亡届・各種届出 | 1〜2週間 | 死亡後7日以内(死亡届) |
| 戸籍謄本の収集 | 1〜2ヶ月 | 法定期限なし(早いほど良い) |
| 相続放棄の検討 | 3ヶ月以内 | 3ヶ月(要注意) |
| 準確定申告 | 1〜2週間 | 4ヶ月以内 |
| 遺産分割協議 | 1〜3ヶ月 | 法定期限なし |
| 銀行・不動産名義変更 | 2〜4ヶ月 | 相続登記は3年以内(2024年義務化) |
| 相続税申告 | 2〜3ヶ月 | 10ヶ月以内 |
自分でやった場合の費用(実費のみ)
専門家に頼まない場合にかかるのは、実費のみです。一般的な相続(不動産なし・相続税なし)なら、合計1〜5万円程度で完結します。
| 費用項目 | 金額目安 |
| 死亡診断書(医師発行) | 3,000〜5,000円 |
| 戸籍謄本(1通) | 450円(市区町村によって差あり) |
| 除籍謄本・改製原戸籍 | 750円/通 |
| 印鑑証明書 | 300円/通 |
| 相続関係説明図の作成(法務局) | 無料 |
| 郵送代(各機関への郵送) | 数千円 |
不動産がある場合は、登録免許税(固定資産税評価額×0.2%)と司法書士費用(自力申請なら無料だが難易度高い)が加わります。
専門家に頼んだ場合との費用比較
専門家費用の目安を把握しておくと、「自分でやる価値があるか」の判断がしやすくなります。
| 専門家 | 依頼できる主な業務 | 費用目安 |
| 司法書士 | 相続登記・書類収集・遺産分割協議書作成 | 10〜30万円 |
| 税理士 | 相続税申告・準確定申告 | 20〜80万円(遺産総額による) |
| 弁護士 | 遺産分割の揉め事・調停・審判 | 30万円〜(着手金+成功報酬) |
| 行政書士 | 相続関係の書類整理・行政手続き | 5〜20万円 |
不動産なし・相続税なし・相続人が同意しているケースなら、専門家費用はほぼゼロで完結します。逆に言えば、==不動産・相続税・相続人間の揉め事==のどれか一つでも該当したら、専門家のサポートを検討する価値があります。
自分でできる手続き・プロに頼む手続きの判断基準
自分でできる手続き一覧
以下の手続きは、時間と手間さえかければ自力で完結できます。
- 死亡届の提出(市区町村の窓口・24時間受付の場合あり)
- 健康保険・年金の喪失手続き(市区町村・年金事務所)
- 銀行口座の相続手続き(各銀行の相続センターへ郵送申請可能)
- 戸籍謄本の収集(郵送申請 or 広域交付制度で一括取得可能)
- 遺産分割協議書の作成(フォーマットは法務局Webサイトで公開)
- 相続関係説明図の作成(手書きOK・書式不問)
- 有価証券の名義変更(証券会社の窓口・一部郵送対応)
- 準確定申告の提出(税務署・e-Taxでも可)
プロに頼むべき手続き一覧
以下の手続きは、ミスが深刻なリスクにつながるため、専門家への依頼を強く推奨します。
- 不動産の相続登記(法的要件が厳密・書類の不備で却下されると手戻りが大きい)
- 相続税申告(申告漏れ・計算ミスは税務調査の対象になる)
- 遺産分割の調停・審判(家庭裁判所への申立が必要・法的判断が必要)
- 限定承認の手続き(全相続人の共同申請が必要で手続きが複雑)
- 事業用資産の相続(事業承継特例など税制優遇の活用に専門知識が必要)
プロに頼むかどうかの判断フロー
以下の3点を確認してください。1つでも「はい」なら、専門家への相談を検討します。
1. 不動産を相続する → 司法書士への相続登記依頼を検討
2. 遺産総額が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人数)を超える → 税理士への相続税申告依頼を検討
3. 相続人の間で意見が一致しない・連絡が取れない → 弁護士または調停への相談を検討
「どれも当てはまらない」なら、自力で完結できる可能性が高いです。
相続手続きの全手順(STEP 1〜8)
STEP1:死亡届の提出と葬儀関係(死亡後7日以内)
死亡の事実を知った日から7日以内に市区町村の窓口へ死亡届を提出します。死亡診断書(または死体検案書)の写しは、保険金請求などに必要になるため、10枚以上コピーしておくことをお勧めします。
同時並行で行う主な手続き:
- 健康保険証の返却(会社員なら勤務先へ・国保は市区町村へ)
- 介護保険証の返却
- 葬儀社との契約・葬儀の実施
落とし穴:死亡届を出すと火葬許可証が発行されますが、火葬証明書(埋葬許可証)は墓地での埋葬時に必要です。紛失しないよう保管してください。
STEP2:相続人の確定(戸籍謄本の収集)
相続人を確定するために、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本が必要です。これは、被相続人が生涯に引越しや本籍変更をしていると、複数の役所に分散して存在します。
取得方法は2つあります:
- 本籍地の役所で直接取得(窓口 or 郵送申請)
- 広域交付制度(2024年3月開始):本籍地が異なる戸籍でも、最寄りの役所で一括取得が可能。ただし、郵送申請では利用不可
郵送申請の場合、返信用封筒(切手貼付)と定額小為替(ゆうちょ銀行で購入)を同封します。
落とし穴:戸籍謄本の「連続性」の確認は役所が行いますが、「この戸籍の前はこちら」という確認作業は申請者側が行う必要があります。不足があれば取得し直しになります。
STEP3:相続財産の調査
相続財産を正確に把握するため、以下を調査します。
| 財産の種類 | 調査方法 |
| 預貯金 | 通帳・カード・全銀協一括照会サービス(有料)で調査 |
| 不動産 | 固定資産税の納付書・法務局で登記事項証明書を取得 |
| 有価証券 | 証券会社から「残高証明書」を取得(手数料発生の場合あり) |
| 生命保険 | 契約書・保険証券を確認(死亡保険金は相続財産に含まれない場合あり) |
| 負債 | 消費者金融・クレジット明細・信用情報機関への照会 |
全国銀行協会の一括照会サービス(電話番号:0570-017109)を使えば、被相続人の口座を持つ金融機関の特定を郵送で依頼できます。費用は無料(返信用封筒・切手は自己負担)。
STEP4:相続放棄・限定承認の検討(3ヶ月以内)
相続を放棄したい場合は、相続の開始を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所へ申述書を提出します。この期限を過ぎると、原則として単純承認(すべての財産と負債を引き継ぐ)とみなされます。
重要:熟慮期間中(3ヶ月以内)に以下の行為をすると、単純承認とみなされる恐れがあります:
- 被相続人の財産を処分・消費すること(現金を引き出すなど)
- 相続財産から自分の借金を払うこと
- 形見分けを超えた遺品の処分
迷っているなら、まず「相続放棄の期間延長申立て」を行うことが可能です(家庭裁判所への申請で3ヶ月延長できる場合あり)。
STEP5:被相続人の所得税申告・準確定申告(4ヶ月以内)
被相続人が死亡した年の1月1日から死亡日までの所得について、相続人が4ヶ月以内に税務署へ準確定申告を提出する義務があります。ただし、被相続人に所得がなかった場合(年金のみ・一定額以下など)は不要なことがあります。
STEP6:遺産分割協議
相続人全員が合意する場合は、遺産分割協議書を作成します。書式は自由ですが、以下の点が明記されている必要があります:
- 被相続人の氏名・死亡年月日
- 相続人全員の署名・実印の押印
- 各相続人が取得する財産の明細
落とし穴:相続人の一人でも欠けた状態で作成した協議書は無効です。連絡が取れない相続人がいる場合は、弁護士に相談してください。
STEP7:各種名義変更・解約
遺産分割協議書が完成したら、各機関に名義変更を申請します。必要書類は機関によって異なりますが、基本セットは以下の通りです。
| 機関 | 必要書類(基本セット) |
| 銀行 | 戸籍謄本一式・遺産分割協議書・印鑑証明書・被相続人の通帳・届出印 |
| 証券会社 | 各社指定の相続申請書・戸籍謄本一式・遺産分割協議書 |
| 法務局(不動産) | 遺産分割協議書・戸籍謄本一式・固定資産評価証明書・登記申請書 |
| 保険会社 | 死亡診断書のコピー・戸籍謄本・受取人の本人確認書類 |
注意:相続登記(不動産の名義変更)は2024年4月から3年以内の申請が義務化されました。怠ると10万円以下の過料が科せられる場合があります。
STEP8:相続税申告(10ヶ月以内)
遺産総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人数)を超える場合は、相続税申告が必要です。例えば、相続人が配偶者と子ども2人(計3人)なら、基礎控除は3,000万円+600万円×3人=4,800万円です。
相続税申告は、計算ミスや申告漏れが税務調査の対象になるため、基本的には税理士への依頼を推奨します。税理士費用は遺産総額の0.5〜1%程度が目安です。
戸籍謄本の集め方(本籍地が複数の場合)
戸籍謄本が多くなる理由
被相続人が生涯で引越しや本籍変更を繰り返していると、戸籍が複数に分かれます。例えば、「出生地(A市)→結婚で転籍(B市)→転勤で本籍変更(C市)」のような場合、A・B・C市それぞれから取得が必要です。
取得の手順(郵送申請)
1. 現在の本籍地(死亡時の住民票記載)の役所に、最新の戸籍謄本を郵送申請
2. 受け取った謄本の「前戸籍」欄を確認し、次の本籍地を特定
3. その役所へ郵送申請を繰り返す
4. 出生まで辿れたら完了
必要な同封物:
- 申請書(役所のWebサイトでDL可能・手書きでも可)
- 定額小為替(ゆうちょ銀行で購入・謄本1通450円分)
- 本人確認書類のコピー
- 返信用封筒(切手貼付)
- 申請理由(「相続手続きのため」でOK)
広域交付制度の活用
2024年3月から、住民票のある市区町村の窓口で、本籍地が異なる戸籍を一括取得できるようになりました(広域交付制度)。ただし、窓口申請のみ対応で郵送不可です。また、コンピュータ化されていない古い戸籍(明治〜昭和の一部)は対象外の場合があります。
【事例】田中さん(67歳・埼玉県)が自分でやった話
「全部自分でやると言ったら、税理士の先生に3回も確認の電話が来た」——田中さんがそう話していたのは、父の相続から半年後のことです。
田中さんの父は83歳で亡くなり、遺産は預貯金800万円と実家(固定資産税評価額1,500万円)でした。相続人は田中さんと妹の2人。遺産総額は約2,300万円で、基礎控除(3,000万円+600万円×2=4,200万円)以下のため、相続税は不要でした。
戸籍謄本の収集で最初に詰まりました。父の本籍は埼玉・静岡・長野の3ヶ所にまたがっており、郵送申請を3回繰り返すことになりました。所要期間は1ヶ月半。「謄本の連続性」を確認しながら申請するのに手間取ったそうです。
実家の名義変更(相続登記)は、法務局の「相続登記の手引き」を参考に、田中さん自身で申請書を作成しました。2回の補正指示を受けながらも、最終的には約3ヶ月で登記が完了。司法書士に依頼した場合の見積もりが15万円だったため、自力で進めることを選んだそうです。
トータルの実費は、戸籍謄本代・印鑑証明・登録免許税(1,500万円×0.2%=3万円)を合わせて約8万円。「時間は相当かかったけれど、専門家費用を節約できた」というのが田中さんの感想でした。
自分でやる場合に多い失敗と対処法
失敗①:戸籍謄本の「連続性」が途切れる
相続手続きでは、被相続人の出生から死亡まで「切れ目なく」繋がった戸籍謄本が必要です。一か所でも抜けると、金融機関や法務局から差し戻されます。
対処法:取得した謄本の「従前の戸籍」欄を必ず確認し、辿れなくなったら役所に「前の戸籍はどこから取ればよいか」と電話で相談しましょう。役所は教えてくれます。
失敗②:相続財産の調査漏れ(負債)
資産は意識して調べても、負債(借入金・保証債務)を見落とすことがあります。借金があると知らずに相続を承認してしまうと、返済義務を負います。
対処法:信用情報機関(CIC・JICC)への照会で、被相続人の借入履歴を確認できる場合があります(手続き要件は各機関への確認が必要)。3ヶ月以内に確認が終わらない場合は、期間延長の申立てをしてください。
失敗③:遺産分割協議書の不備
相続人の一人でも欠けた協議書、実印でなく認印が押されている協議書は、金融機関や法務局で受理されません。
対処法:遺産分割協議書のひな型は法務局のWebサイトで公開されています。署名は必ず直筆で、印鑑は実印(印鑑証明書が必要)を使用してください。
失敗④:期限を過ぎた相続放棄
「3ヶ月以内」の期限を知らずに過ぎてしまうと、原則として単純承認になります。
対処法:「相続の開始を知った日から3ヶ月以内」という起算点は、必ずしも死亡日ではありません。借金の存在を後から知った場合など、例外的に期間延長が認められるケースがあります。期限が近い場合は、すぐに家庭裁判所か弁護士に相談してください。
よくある質問
Q. 相続手続きに法律上の期限はいくつありますか?
主な期限は3つです。①相続放棄・限定承認は3ヶ月以内、②準確定申告は4ヶ月以内、③相続税申告は10ヶ月以内です。遺産分割協議や銀行の名義変更には法定の期限はありませんが、相続登記は2024年4月から3年以内が義務となりました。
Q. 相続人が海外に住んでいる場合はどうなりますか?
海外在住の相続人がいる場合、署名・押印の代わりに「サイン証明書」と「在外公館発行の印鑑証明に相当する書類」が必要になります。在外公館(大使館・領事館)で取得でき、取得に数週間かかるため、早めに準備することをお勧めします。
Q. 遺言書がある場合は遺産分割協議書は必要ですか?
遺言書がある場合は、原則として遺言書の内容に従って手続きを進めます。ただし、遺言書の内容に不備がある部分(記載漏れなど)については、相続人間で遺産分割協議を行う必要があります。また、公正証書遺言でない場合は、家庭裁判所で「検認」の手続きが必要です。
Q. 相続手続きを放置するとどうなりますか?
相続税申告を放置すると、延滞税や無申告加算税が課されます。相続登記を放置すると、不動産の売却や担保設定ができなくなります。また、2024年4月以降は相続登記義務化により、過料(10万円以下)が科せられる場合もあります。
Q. 相続人全員が遠方に住んでいる場合の手続きはどうすればいいですか?
多くの手続きは郵送で対応可能です。銀行の相続手続きは各銀行の相続センターに郵送申請できます。法務局も郵送申請が可能です。相続人間の書類のやり取りは、返信用封筒同封の形で対応できます。
まとめ
相続手続きは、全体像を把握してから動くことが大切です。不動産なし・相続税なし・相続人間で合意があるという条件が揃えば、実費数万円で自力完結できます。戸籍謄本の収集に時間がかかることを念頭に置き、期限のある手続き(相続放棄3ヶ月・準確定申告4ヶ月・相続税申告10ヶ月)を最優先で確認してください。
「ここからは専門家に」という判断基準は明確です。不動産の相続登記、相続税申告、相続人間の揉め事の3点のどれかに該当したら、専門家への相談を検討してください。費用は発生しますが、ミスによる手戻りや税務調査のリスクと比べれば、安いコストです。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
相続の問題は、知っているかどうかだけで、結果が大きく変わります。
難しい制度のなかで、正しい情報を手に入れることがどれほど大切か、
日々の記事執筆を通じて痛感しています。
この記事が、あなたの生活を少しでも楽にするきっかけになれば嬉しいです。
これからも、あなたの生活防衛に役立つ情報を発信し続けます。
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